No.128

現代アイルランド語におけるWH移動についての二つの注目点

牧 秀樹(岐阜大学)
ドナル P. オボイル(クイーンズ大学ベルファースト)

本論文では、現代アイルランド語における新たな発見を2つ報告し、その発見が、統語理論に対して持つ意味を論ずる。2つの発見は、次のようである。(1)主語・目的語からの疑問詞の抜き出しに関して非対称性があり、主語からの抜き出しは不可能であること。(2)主語の疑問詞を超えて、その下位に生成された疑問詞が移動することができ、優位性効果が表出しないこと。これらの発見は、統語理論に対して以下のことを示唆すると論ずる。(1)指定部からの抜き出しは、その指定部にある句と述語が、φ-素性において一致する時にのみ不可能になること。(2)AGRoではなく、vが優位性の有無に関して重要な役割を果たしていること。

サラマッカ語のムードとモダリティ

ハイコ・ナロック(東北大学)

モダリティの文法範疇の中に統語的振る舞いの異なる下位カテゴリーが含まれている可能性があることは、以前より注目されている。また、形式文法論におい ても機能主義的・類型論的文法論においても、その下位カテゴリーの、機能的カテゴリーの階層構造における位置が普遍的であるという主張がなされている。本研究では、スリナムのクレオール語であるサラマッカ語の動詞句におけるモダリティの文法的標示の統語的振る舞いを調査し、その結果を「役割と指示の文法」 (RRG)と「機能主義文法」(FG)で提案されたモダリティの階層と比較した。その結果、サラマッカ語のモダリティ表現において根源的モダリティ(root modality)と認識的モダリティ(epistemic modality)との間に階層上の明確な断絶が認定でき、サラマッカ語のデータは普遍的と思われてきた傾向に概ね合致することが判明したが、各文法理論 で必ずしも予測されていない個別の文法標示の間の相違が存在することも分かった。なお、本論文は小規模ながらサラマッカ語の記述に貢献することも目的とする。

The English To-infinitive as a Representation of Syntactic Aspect

Kenjiro Tagawa(Shobi University)

This paper claims that the English to-infinitives base-generated in the complement position of VP represent a type of syntactic (grammatical) aspect.

The argument is partly motivated by a historical parallel: the fact that both to-infinitives and progressive participles have developed from prepositional phrases with spatial meanings.

The semantics of the to-infinitive are analyzed along with those of the perfective and progressive constructions. It is argued that a verb that takes a to-infinitive as its complement describes an event or state with implicit relevance to the infinitive event or state, while the perfective participle has similar relevance to the matrix tense. The referential nature of verb-following to-infinitives and that of perfective participles are thus temporally symmetrical, suggesting that such to-infinitives form part of the syntactic aspect system of English. The ‘future-oriented’ use of to-infinitives is shown to be the syntactic representation of ‘prospective aspect’, discussed in Comrie (1976) and others.
  Following and modifying Felser (1999), Lasnik (2000), and others, it is assumed here that a typical English sentence has the structure [ IP [ NegP [ VP [ AspP [ VP ] ] ] ] ], with infinitival to, progressive -ing, and perfective -en each checking their syntactic aspect feature in the head of AspP. The negation marker not, which normally precedes to, is assumed to occur either in the head of NegP or as an adjunct to AspP.

かき混ぜ文の即時処理と出現頻度―Koizumi and Tamaoka(2004)へのコメント―

エジソン ミヤモト(筑波大学)
中村 美智子(ハワイ大学)

小泉・玉岡(2004)は、二重目的語を伴うかき混ぜ文ともとの文に対する反応時間を比較し、結果の違いが二つの文の統語構造の違いによるものであると主張した。本稿では、新聞コーパスから得た頻度や被験者に行なった文完成作業の結果をもとに、かき混ぜ文が比較的まれな現象であることを示し、かき混ぜ文に対する反応時間を扱う際、頻度の影響が問題となることを指摘する。また、日本語かき混ぜ文の即時処理モデルを例示し、小泉・玉岡が考慮すべき様々な問題を提示する。