大竹昌巳氏(京都大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
「契丹小字文献における母音の長さの書き分け」『言語研究』148号(2015年9月)
すでに死滅した言語である契丹語の文字を介して、母音の長短の対立について検討した論文である。現代モンゴル語、中期モンゴル語、モンゴル文語、モンゴル祖語、さらに近隣語族言語と比較しながら、接尾辞等の異形態、同源語、綴字交替、同語異綴などを検討し、二次的長母音の存在と一次的長母音の残存を明らかにした。論証過程は興味深く、当該研究分野の深化と活性化に寄与する論文である。
矢野雅貴氏(九州大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
“The Interaction of Morphosyntactic and Semantic Processing in Japanese Sentence Comprehension: Evidence from Event-Related Brain Potentials” (共著者:坂本勉氏)『言語研究』149号(2016年3月)
事象関連電位(脳波)を指標として、形態統語処理と意味処理の相互作用を検討した研究である。実験の結果、格違反文と意味役割を逆転した文において左前頭部陰性波とP600が観察された。このことで、統語と意味の処理が刺激呈示後400ミリ秒で相互に作用していることを示唆した。言語をめぐる本質的な問題の解明を目指しており、当該の研究分野に大きく貢献する実証的研究である。