第156回大会(2018年春季,東京大学)の大会発表賞(3件)

・坂井美日氏

「九州方言における主語標示の使い分けと動作主性」

熊本・博多・甑島の主語標示格助詞「の」対「が」の使用区別について、近年の類型論的研究の成果を踏まえて「動作主性」の視座からの分析を展開したもので、説得力のある内容となっている。従来の観点「尊卑性」を「動作主性」の中に取り込もうとする議論は今後の方向性を示すものとして高く評価できる。予稿集、発表の仕方ともに論点が整理されており、質疑応答も活発で応答内容も適切であった。

・倉部慶太氏

「ジンポー語における語頭鼻音の成節性」

シナ・チベット語族の系統内音韻類型論にとって重要な「NC連続」の「N」の音節性の問題に関して、ジンポー語のデータを基に考察し、Nが成節的であるという結論を説得的に導き出した。ジンポー語の音韻事実の精緻な記述が進められた点、従来のTone-Bearing Unit testに加えて5つの証拠を示した点に貢献が認められる。質疑ではこれらの証拠の重要度の違いについて十分に明らかにできなかったが、フィールド調査で得た一次資料を用いて多角的に分析したことは高く評価される。

・山田彬尭氏

“A Modal Approach to no-clauses in Japanese”

日本語のノ補文とそれを埋め込む述語の関係について形式意味論的な説明を与えようとした研究で、ノ補文は出来事の集合を外延として持つのに対し、述語がモーダルベースを提供するという分析を示している。コーパスを用いて述語の分類を行ない、それを理論に反映させた点が特徴的で、「待つ」の意味論にモダリティを取り込むアイディアには説得力があった。プレゼンテーションは明瞭で、質疑応答も誠実になされていた。

授賞式(第157回大会,11/18,京都大学)

2018春発表賞