会長 定延 利之
このページでは、日本言語学会の沿革と基本的な方針、並びに現在の諸活動について展望します。
沿革
日本言語学会の歴史は、『言語研究別冊 日本言語学会50年の歩み』(1988年12月)、『日本言語学会大会100回の歩み』(1990年6月)、『言語研究』の各号に掲載の「彙報」から読み取ることができます。大会と機関誌については、本サイトの「大会一覧」および「学会誌バックナンバー」をご参照ください
上記『日本言語学会50年の歩み』によると、1938(昭和13)年2月に東京神田の学士会館において本学会の設立が決議され、新村出先生を会長とし、副会長の小倉進平先生以下16名の評議員と高津春繁先生以下5名の幹事が選出されたとあります。これに引き続き、同年5月に第1回の創立大会が東京帝国大学で開かれ、そこでは柳田国男先生を含む3人の講演が行われたと記録されています。初期の大会では、金田一京助、市河三喜、神保 格、泉井久之助、佐久間 鼎、新村 出、中島文雄、小林英夫、時枝誠記、服部四郎といった我が国の言語学研究の礎を築いた碩学が競って発表をしていたようです。歴代の会長の氏名を挙げると次のようになります。
1938-1967 新村 出
1967-1971 金田一京助
1971-1972年度 高津春繁(interregnum委員長)
1973-1974年度 柴田 武(interregnum委員長)
1975-1976年度 服部四郎
1977-1978年度 泉井久之助
1979-1980年度 西田龍雄
1981-1982年度 川本茂雄
1983-1984年度 井上和子
1985-1987年度 国広哲弥
1988-1990年度 小泉 保
1991-1993年度 松本克己
1994-1996年度 梅田博之
1997-1999年度 柴谷方良
2000-2002年度 早田輝洋
2003-2005年度 庄垣内正弘
2006-2008年度 上野善道
2009-2011年度 影山太郎
2012-2014年度 梶 茂樹
2015-2017年度 窪薗晴夫
2018-2020年度 田窪行則
2021-2023年度 福井直樹
学会の基本姿勢
注目すべきは、これら歴代会長の専門分野が一般言語学だけでなく、方言学、意味論、音韻論、生成文法、言語類型論、文献学など多岐にわたり、また、得意とする言語も日本語のほか、アイヌ語、朝鮮語、チベット・ビルマ諸語、英語、フランス語、フィンランド語、ウイグル語など広範囲であるという点です。初代会長の新村出先生は、『言語研究』創刊号に掲載された「創刊にあたりて」の文章の中で「実践的顧慮によって論述の体を歪められることなく、一学派一運動の宣伝誌に傾くことなく、あくまでもその学問的価値に基準をおくところの論作を収載する雑誌である」(原文旧字体)と述べられています。その精神は、これだけ様々な言語理論が林立し、対象言語も地球の隅々にまで及ぶ現在の日本言語学会の活動においても不変であり、この学術性重視、客観性重視の姿勢こそが本学会の特徴となると思われます。すなわち、本学会が現在、会員数1,700余名を包括する大学会として活動を続けているのは、特定の理論的枠組みやアプローチにとらわれず、また、研究対象も日本語を軸として世界の諸言語に及ぶという学問的な多様性と懐の深さによるものと捉えられます。
学会の組織と運営
本学会の実質的な企画・運営は、会長、事務局のほか、会長を補佐する常任委員会、学会誌『言語研究』を編集・刊行する編集委員会、年2回の大会(研究発表、シンポジウム、講演、ワークショップを含み、年に一度は会員総会も開催)を企画・運営する大会運営委員会、学会の諸活動の状況や活動成果を発信するための広報委員会、会員・非会員を問わず一般向けに言語学講習会を隔年に開催する夏期講座委員会、学会賞(論文賞、発表賞)の選考にあたる学会賞選考委員会で行っており、そのうち、会長と編集委員長は3年に一度の会員選挙によって選出されます。会長およびこれらの諸委員会が学会の活動を企画・運営し、その妥当性は、会員選挙によって選ばれた約70名の評議員によって構成される評議員会が年2回の大会開催と連動して行われる評議員会において客観的に検討されます。また、学会予算の執行の状況は、これも会員選挙によって選出される2名の会計監査委員によって厳密に監査されます。なお、学会の活動に際しては日本学術振興会の科学研究費補助金を受けていますから、その使途については別に科研費監査担当委員を設け、不正のないように自己点検を行っています。その他、研究・教育・学会活動等における倫理的問題を扱うために倫理委員会を置き、また、緊急の課題が生じた場合には、随時、小委員会を設け、その解決に当たる体制を取っています。
日本言語学会が基本姿勢として重視する「言語の多様性」については、その方面の研究成果を学会サイトで広く一般に発信するためのプロジェクトを助成する制度を設けています。
[以上の項目は当時会長であった田窪行則氏によって執筆されましたが、変更の必要性は特に認められないため、最小限のアップデートを施して再録します。]
以下では、各種委員会の活動方針を説明します。
各種委員会からのメッセージ
【編集委員会】
編集委員会は、日本言語学会の学術誌『言語研究』の刊行に関わる一連の業務を担当しています。『言語研究』は、学会設立の翌年1939年の創刊号刊行から、第二次世界大戦前後の6年間を除いて、これまで80年余りの長きにわたり休むことなく刊行されて続けてきた歴史ある言語研究の学術誌です。創刊以来、一学派、一運動の宣伝誌に傾かず、あくまでも学問的レベルの高さを重視するという基本的姿勢を貫き、日本の多様な言語研究の発展に貢献してきました。2024年度からスタートした今期の編集委員会も、このような精神をしっかりと受け継ぎ、日本の言語研究の発展のために精一杯努力していく所存です。
言語研究をとりまく状況はさまざまに変化していきます。経済変動や社会変動、社会意識の変化、国際状況、パンデミックのほか技術革新などがあり、これらは私たちの研究にさまざまな影響を及ぼします。言語研究の領域も多様化と細分化が進み,そのときどきで研究の潮流が大きく変わることもあるでしょう。しかし、たとえ研究環境に制約があってもわたしたちは営々と研究を進めるしかなく、どのような状況下でもこれまで真に普遍的価値を持つ優れた研究や論文が生み出され、言語研究が進展してきたことに思いをいたすべきだと思います。
会員の皆様からの投稿を編集委員一同、お待ちしております。
(編集委員会委員長 加藤重広)
【大会運営委員会】
本学会の大会は、年2回春と秋に開催されており、各会員が日頃の研究成果を報告し、互いに議論を深める場として、学会におけるもっとも重要な活動のひとつです。研究テーマは学会の趣旨を反映し、日本の諸言語・諸方言、世界の少数言語のフィールドワークに基づく記述的研究、理論的研究、死語を扱う文献言語学的研究など、きわめて多岐にわたります。最近では、口頭発表、ポスター発表、ワークショップといった多様な形式で発表機会が提供され、また、学会の重要な社会活動として、公開シンポジウムなど一般に開かれたプログラムが組まれることもあります。
私たち大会運営委員会は、言語学の様々な分野における、様々な理論的枠組みや方法論を用いた優れた研究を共有し、良いコミュニケーションの機会が作れるよう、大会の企画と運営に当たっています。会員の皆様におかれましては、積極的な発表エントリーをお願いいたします。また、大会には会員・非会員の区別なく参加できますので、広く言語研究に関心をもつ皆様のご参加をお待ちしています。
(大会運営委員長 小町将之)
【広報委員会】
広報委員会は、主に、日本言語学会の学会誌、研究大会、夏期講座、及び危機言語・危機方言の成果の周知のための業務を担当し、日本言語学会の活動内容を迅速に分かりやすく広報できるように努めています。
学会のホームページの管理は、最も重要な業務の一つです。学会誌『言語研究』については、学会ホームページからリンクされている科学技術振興機構(JST)のアーカイブサイト上で、無償でPDFファイルがダウンロードできます。最新の論文・フォーラム・書評について、順次ダウンロードを可能にしています。1年に2回行われる研究大会や、隔年で開催している夏期講座についても、最新の情報を学会ホームページ、ならびに複数のSNS上で提供しています。研究発表の応募や参加申し込みも、オンライン上で可能になっています。また、学会ホームページの「学会からのお知らせ」に掲載される情報は、SNS(Twitter、Facebook)で発信しています。
その他、「言語系学会連合」に関する情報や、研究者や関連機関から学会に寄せられた各種情報(学会・講演会・研究会の情報、論文・発表募集、教員・研究員公募、奨学金・研究助成公募等)を随時、ホームページ上で掲示しています。
(広報委員長 杉崎鉱司)
【夏期講座委員会】
日本言語学会では隔年で夏期講座を開催しており、その企画・立案・運営を担当しているのが夏期講座委員会です。夏期講座は、「言語学の裾野を広げる」という日本言語学会の方針のひとつを実現するために開催しているものであり、国内外の著名な研究者を講師として招き、さまざまな分野について研究の第一線の知見を広く提供するため初級から上級まで12の講義を開講しています。日本言語学会では、1999年に第1回の夏期講座を開催し、2000年以降隔年で偶数年に開講してきました。2009年には、夏期講座を言語学会の事業の一つと位置づけ、それまでの夏期講座小委員会から常置の夏期講座委員会になりました。初期の夏期講座は合宿式でしたが、大学を会場とするようになり、第6回目までの夏期講座は、原則として首都圏と関西で交互に開催してきましたが、その他の地域でも、北海道大学(第7回)と名古屋大学(第9回)で開催しました。2020年は神戸大学での開催を予定していましたが、コロナ禍のため中止しました。2022年は東北大学を拠点としてオンラインで開催し、2024年には再び神戸大学で従来の対面型開催に復活いたします。参加者に毎回お願いしているアンケートからは、満足度が非常に高く、会員以外にも多くの方が参加していることがわかります。参加者は、大学院生のほか大学教員・学部学生・日本語教師・中高教諭・その他社会人など多様であり、海外からの参加者も少なくありません。この講座は、言語学会の会員でなくても同じように受講できます。夏期講座の情報は日本言語学会のウェブサイトで提供しており、参加受付期間(おおむね当該年度の4月から)は専用のウェブサイトを用意しています。
(夏期講座委員長 木山幸子)
【学会賞選考委員会】
日本言語学会では、2011年に、研究活動の一層の向上・充実を目的として、若手会員の傑出した研究論文と研究発表を顕彰する「論文賞」と「大会発表賞」を設けました。論文賞は、毎年選考を行い、その前年度と前々年度に刊行された『言語研究』(4号分) に掲載された論文のうち、特に優れていると認められるもの1件 (最大2件) に与えられます。また、大会発表賞には、大会毎に、口頭発表およびポスター発表の中から数件を選考します。選考は、それぞれの選考部会によってなされ、受賞論文の著者受賞研究発表の発表者には、大会時に会長から表彰状および副賞が授与されます。これまでの受賞論文、受賞研究発表の題目と要旨は、日本言語学会ホームページにてご覧いただけます。
学会賞選考委員会委員長 滝浦真人)
【事務局から】
日本言語学会の事務局は、会長または事務局長の所属機関に置かれることになっています。現在の事務局は、事務局長が所属する神戸大学大学院国際文化学研究科にあります。会員関係の業務は、中西印刷NACOS学会フォーラム(京都市)にある「事務支局」が担当していますので、こちらにお問い合わせください。連絡先は、日本言語学会トップページに示されています。
学会は多くの会員の皆さんに支えられて成り立っています。日本言語学会が伝統を守りながらも、さらに発展していくために、学会の活動や運営にご理解とご協力を賜りますようよろしくお願いいたします。
(事務局長 南本徹)
最終更新 2024年8月